はじめに
ブロックチェーン技術は、暗号通貨だけにとどまらず、急速に発展しています。今では、分散型金融(DeFi)や分散型アプリケーション(dApps)、サプライチェーンや医療など、さまざまな分野に応用されています。しかし、ブロックチェーンがそれぞれ独立して存在しているため、異なるブロックチェーン同士でスムーズにデータをやり取りできないという課題に直面しています。この問題が「相互運用性」の課題です。
今回のブログでは、前回のブログでも紹介したブロックチェーンの相互運用性においてPolkadotとAstar Networkがどのようにこの問題を解決しようとしているのかを分かりやすく解説します。
相互運用性とは?
「相互運用性」というと少し難しく感じるかもしれませんが、簡単に言えば、異なるブロックチェーン同士がデータをやり取りできる能力のことです。例えば、ビットコインやイーサリアムなど、異なるブロックチェーンの間でトークンを移動させたり、取引データを交換できることが目的です。これができると、現在のブロックチェーンが抱えるスケーラビリティの問題も改善でき、取引の効率化が進むと期待されています。
Polkadotとは?
Polkadotは、Web3.0のインフラを構築することを目標としており、「拡張可能で異種混合な複数チェーン」として異なるブロックチェーンエコシステム間の統合を重視しています。相互運用性、スケーラビリティ、セキュリティの3つを同時に実現するためのアーキテクチャは、他のブロックチェーンとは異なる革新的なアプローチです。
◾️論文
https://assets.polkadot.network/Polkadot-whitepaper.pdf
Polkadotの仕組みと特徴
Polkadot(ポルカドット)は、ブロックチェーンの「相互運用性」を実現するために設計された、特別な仕組みを持つプロジェクトです。その中核となるのが「リレーチェーン」です。このリレーチェーンは、複数のブロックチェーン(パラチェーン)を接続して、これらの間で安全にデータやトークンをやり取りできるようにしています。
Polkadotの最大の強みは「共有セキュリティ」というコンセプトです。リレーチェーンが各パラチェーンに対してセキュリティを提供するため、新しいプロジェクトが独自のセキュリティシステムを持つ必要がありません。これにより、新規のブロックチェーンプロジェクトがスタートしやすくなるのです。
リレーチェーン(Relay Chain)
Polkadotの中心的な要素であるリレーチェーンは、すべてのブロックチェーン(パラチェーン)をつなぎ、ネットワーク全体のセキュリティとコンセンサスを管理します。リレーチェーンは非常に軽量に設計されており、パラチェーンのトランザクション処理をサポートしつつ、自身の取引負荷を最小限に抑える構造を持っています。
パラチェーン(Parachains)
パラチェーンとは、Polkadotのリレーチェーンに接続された独立したブロックチェーンです。各パラチェーンは、特定の用途やニーズに応じて最適化されることができ、例えばDeFi、ゲーム、トークン化された資産など多様なユースケースに対応しています。Polkadotでは、このパラチェーンが自由にカスタマイズされ、リレーチェーンのセキュリティと統合されて動作します。
ブリッジ
Polkadotは、イーサリアムやビットコインなど他の独立したブロックチェーンと接続するためのブリッジ機能を持っています。これにより、異なるブロックチェーン上のトークンやデータをシームレスに移動させることができます。Polkadotのブリッジは、異なるエコシステム間の相互運用性を提供し、ブロックチェーン業界全体の統合を推進します。
NPoS(Nominated Proof of Stake)
PolkadotのコンセンサスアルゴリズムはNPoS(Nominated Proof of Stake)と呼ばれます。これは、ステーキングされたトークンに基づいてブロックを生成し、ネットワークのセキュリティを確保する方式です。Polkadotでは、バリデータ(ブロックを検証するノード)とノミネータ(信頼できるバリデータを選出する役割を持つ参加者)が協力してネットワークの安全性を保ちます。
ガバナンス
Polkadotは、オンチェーンガバナンスを採用しており、トークン保有者がネットワークのアップグレードやプロトコル変更に直接関与できます。これにより、ネットワーク全体の意思決定プロセスが分散され、コミュニティの意見を反映した自律的なネットワーク運営が可能となります。
Polkadotの主要暗号通貨「DOT」
PolkadotのネイティブトークンであるDOTは、ネットワーク内でさまざまな役割を果たします。主な用途は以下の通りです。
ステーキング
DOTはネットワークのセキュリティを強化するためにステーキングされ、バリデータをサポートします。参加者はDOTをステークすることで、バリデータの役割を果たす権利を得たり、ノミネータとして信頼できるバリデータを支援したりします。
ガバナンス
DOT保有者は、ネットワークのガバナンスに参加することができます。提案されたアップデートやネットワークの変更について、投票を行い、Polkadotの進化に影響を与えることができます。
パラチェーンのスロットオークション
パラチェーンをネットワークに接続するには、オークション形式でスロットを獲得する必要があり、その際にDOTが使用されます。パラチェーンの運営者は、一定期間DOTをロックすることでスロットを確保します。
ポルカドットとイーサリアムの違い
Polkadotは、イーサリアムとは異なるコンセプトで設計されたブロックチェーンネットワークです。両者には共通する部分もありますが、いくつかの重要な点で異なっています。Polkadotは、特に相互運用性やマルチチェーンの構造に焦点を当て、異なるブロックチェーン間の連携やデータ交換を可能にすることを目指しています。以下、Polkadotとイーサリアムの違いについて詳しく説明します。
項目 | ポルカドット | イーサリアム |
---|---|---|
相互運用性 | 複数のブロックチェーン(パラチェーン)間のデータ・トークンの交換が可能。 | 他チェーンとの相互運用性は基本的にデフォルトでは提供されていない。 |
アーキテクチャ | リレーチェーンを中心としたマルチチェーン構造。 | 単一のブロックチェーン構造。 |
スケーラビリティ | 各パラチェーンが独立して取引処理を行い、スケーラビリティを確保。 | Layer 2ソリューションやイーサリアム2.0で対応。 |
セキュリティ | リレーチェーンによる共有セキュリティを提供。 | セキュリティは各ノードが個別に処理。 |
ガバナンス | オンチェーンガバナンスを採用、フォークレスアップグレードが可能。 | オフチェーンのガバナンスが中心、ハードフォークによるアップグレード。 |
コンセンサスアルゴリズム | NPoS(Nominated Proof of Stake)を採用。 | PoW(Proof of Work)からPoS(Proof of Stake)へ移行中。 |
ウォレット
◾️ポルカドットウォレット
◾️Polkadot{.js}
インストール:https://polkadot.js.org/extension
app wallet 起動:https://polkadot.js.org/apps/#/explorer
◾️SubWallet
◾️Rococo testnet
Astar Networkとは?
Astar Network(アスターネットワーク)は、Polkadotエコシステムにおいて重要な役割を果たす、スマートコントラクトプラットフォームです。特に、Ethereum(イーサリアム)との互換性や、さまざまなブロックチェーンをつなぐブリッジ機能を備えており、開発者が柔軟かつ効率的に分散型アプリケーション(dApps)を開発できる環境を提供します。
Astar Networkの役割
Astar Network(アスター・ネットワーク)は、Polkadotのパラチェーンの1つで、特にEthereum(イーサリアム)との互換性を持つブロックチェーンです。このネットワークの大きな魅力は、開発者がスマートコントラクトを簡単に作れるだけでなく、Polkadotのリレーチェーンによるセキュリティを利用できる点です。
さらに、Astarは独自の報酬システムを持っており、開発者が作ったdApp(分散型アプリケーション)に対してトークンが支払われる仕組みもあります。これにより、開発者は直接的なインセンティブを得て、より多くの人が開発に参加しやすくなります。
Astar Networkの重要な特徴は、Ethereum Virtual Machine(EVM)との互換性を持ちながら、Polkadotのセキュリティを利用できる点です。これにより、開発者はEVMを利用したスマートコントラクトを簡単に開発できるだけでなく、Polkadotのリレーチェーンのセキュリティを享受できます。
Astar Networkの主な特徴
Polkadotのパラチェーン
Astar NetworkはPolkadotのパラチェーンの一つです。Polkadotのパラチェーンとして、AstarはPolkadotのシェアードセキュリティ(共有セキュリティ)モデルを利用し、Polkadotのリレーチェーンの安全性を享受しています。これにより、Astar Network自体がセキュリティや分散性を維持しつつ、柔軟なスマートコントラクト開発を行うことができます。
Ethereum Virtual Machine(EVM)互換性
Astar Networkは、Ethereum Virtual Machine(EVM)と完全に互換性があり、Ethereum上で動作するスマートコントラクトを容易に移植・実行することが可能です。これにより、開発者は既存のEthereumベースのdAppをAstarに展開する際に、大幅な改修を必要とせずに済みます。Astarは、EthereumとPolkadotのブリッジとして機能します。
WASM(WebAssembly)スマートコントラクトサポート
Astarは、WASM(WebAssembly)をサポートしており、これにより多くのプログラミング言語を利用してスマートコントラクトを開発できます。WASMはEVMよりも高速かつ柔軟なパフォーマンスを提供し、Ethereumに依存しない新しいスマートコントラクトの開発が可能です。
dApp Staking機能
Astar Networkの大きな特徴の一つは、dApp Stakingという報酬メカニズムです。これは、dApp開発者がネットワークからトークンを受け取ることができる仕組みで、開発者がdAppの品質や人気に応じて報酬を得ることができます。この仕組みは、開発者がより多くのdAppを提供し、ネットワークの成長を促進するインセンティブとなります。
Layer 2ソリューション
Astar Networkは、Ethereumなど他のブロックチェーンとのLayer 2スケーリングソリューションもサポートしています。これにより、トランザクション手数料を削減し、よりスムーズなユーザーエクスペリエンスを提供します。
Astar Networkのユースケース
dApp開発
Astarは、開発者が分散型金融(DeFi)、NFTマーケットプレイス、ゲームなどのdAppを開発・展開できるプラットフォームを提供しています。dApp Stakingにより、開発者は直接的な収益を得ることが可能です。
クロスチェーンサービス
Astarは、Ethereum、Polkadot、ビットコインなどのブロックチェーンと接続し、異なるネットワーク間でのデータやトークンのシームレスな移動を可能にします。これにより、ユーザーは異なるブロックチェーン間での操作をスムーズに行うことができます。
DeFiエコシステムの拡張
Astarは、DeFiアプリケーションの開発と実行をサポートし、ユーザーが分散型金融プロトコルを利用して資産の貸し借りや取引を行える環境を提供します。
進行中の技術革新:Polkadot 2.0について
Polkadot 2.0とは?
Polkadot 2.0は、現在のPolkadotのネットワークをさらに進化させ、次世代のブロックチェーン技術を実現するためのアップデートです。
Polkadot 2.0の主要な特徴
スケーラビリティの向上
Polkadot 2.0では、ネットワークのスループットを大幅に向上させ、より多くのトランザクションを並行して処理できるように設計されています。これにより、DeFi、dAppsなどのアプリケーションが高いトラフィックに対応しやすくなります。
クロスチェーンメッセージングの拡張
Polkadot 2.0は、クロスチェーンメッセージングプロトコル(XCMP)を改善し、異なるパラチェーン間でのメッセージ交換がよりシームレスかつ効率的に行えるようにします。これにより、より多くのブロックチェーン間の相互運用性が実現し、複数のネットワークでのデータ共有が容易になります。
セキュリティとガバナンスの強化
Polkadot 2.0では、オンチェーンガバナンスのさらなる強化が行われ、ネットワーク参加者がネットワークの進化に貢献できる仕組みがより洗練されます。また、セキュリティモデルも改善され、より強固なネットワークが提供されます。
トランザクション処理の最適化
トランザクションの処理速度を向上させ、手数料を削減することで、ユーザー体験を向上させます。これにより、DeFiやその他の分散型アプリケーションの利用がさらに便利になります。
マルチパラチェーンのサポート
Polkadot 2.0は、同時に複数のパラチェーンをサポートし、各パラチェーンが独自のプロトコルで動作できる柔軟性を維持しながら、全体の性能を向上させることができます。
処理能力の向上を目指す「Jam Chain」
Jam Chainは、Polkadot 2.0に関連する新しいブロックチェーン技術の一環として導入が予定されているもので、Polkadotのトランザクション処理性能やスケーラビリティを大幅に向上させることを目的としています。Jam ChainはPolkadotの中核的な技術であるリレーチェーンの仕組みを強化し、より高速かつ効率的なブロック生成とデータ処理を実現します。
Jam Chainの主な特徴
トランザクション処理の最適化
Jam Chainでは、従来のリレーチェーンの機能を進化させ、トランザクションの処理速度を大幅に向上させることが目的です。これにより、Polkadotネットワーク全体のスループットが増加し、より迅速なトランザクションが可能になります。
オフチェーン処理の活用
一部の処理をオフチェーンで実行することで、オンチェーンの負荷を軽減し、ネットワーク全体の効率を高めます。これにより、スケーラビリティが向上し、処理速度がさらに最適化されます。
ブロック生成アルゴリズムの改善
Jam Chainでは、現在のブロック生成アルゴリズム(BabeやGrandpa)の改良が行われ、フォーク発生のリスクを軽減し、ブロックの最終化速度を向上させることが期待されています。これにより、ネットワークの信頼性が高まります。
並列処理の強化
複数のトランザクションを並列に処理することで、ネットワーク全体のパフォーマンスが向上します。これにより、複数のパラチェーンが同時に動作しても、それぞれのパフォーマンスが損なわれることなく機能します。
効率的なリレー
Jam Chainは、高速かつ効率的なデータ通信を行うための新しいプロトコルや通信手法を採用します。これにより、パラチェーン間や外部ネットワークとのブリッジングも改善され、よりシームレスな相互運用性が実現します。
シェアードセキュリティの継承
Polkadotの特徴であるシェアードセキュリティ(共有セキュリティ)モデルはJam Chainにも継承され、複数のパラチェーンがPolkadotのリレーチェーンのセキュリティを共有しつつ、独立して運用されます。
PolkadotとAstar Networkの未来
PolkadotとAstar Networkは、ブロックチェーンの相互運用性を実現し、分散型技術の未来を切り開くための中心的なプロジェクトです。特に、Polkadot 2.0や「Jam Chain」という新技術の導入によって、さらに高速で効率的な取引が可能になると期待されています。
Astar Networkも引き続き、イーサリアムとPolkadotのブリッジとして重要な役割を果たし、ブロックチェーン技術の発展を支えるでしょう。
結論
ブロックチェーンの相互運用性は、分散型技術の未来において極めて重要な課題です。PolkadotとAstar Networkは、この課題を解決し、ブロックチェーンのエコシステム全体をより効率的で強力なものに進化させるための中心的なプロジェクトです。
今後、これらのプロジェクトの進展により、さらに高度なブロックチェーンの相互運用性が実現し、データとトークンの自由な流通が可能となる日もそう遠くはないのかもしれません。
◾️参考文献
『Polkadot の分析: アーキテクチャ、内部構造、矛盾』
『Polkadot Paraverse 全体で代替資産を共有する』https://ieeexplore.ieee.org/abstract/document/9872938
『Polkadot のトランザクション エコシステムの特徴: 方法論、ツール、洞察』
『Overview of Polkadot and its Design Considerations』
『Polkadot Paper』
『Polkadot Wiki』
『Ink!』
『Polkadot Cross-Consensus Message (XCM) Format』
『The Polkadot Parachain Host Implementers’ Guide』
『Metadata Explorer』
『Astar Docs』
『Astar zkEVM FAQs』
『Polygon Knowledge Layer』
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