概要
近年、ブロックチェーン技術は金融業界だけでなく、さまざまな分野で注目を集めています。特に「エンタープライズブロックチェーン」は、企業が業務の効率化やセキュリティの強化、新たなビジネスモデルの構築に活用できる可能性を秘めています。
この記事では、エンタープライズブロックチェーンの基本的な概要や特徴、代表的なプラットフォーム、そして実際の活用事例を紹介し、企業におけるブロックチェーンの活用方法についてわかりやすく解説します。
エンタープライズブロックチェーンとは?
ブロックチェーンとは?
ブロックチェーンは、分散型台帳技術(DLT)の一種で、複数のコンピュータが共有するデータベースです。取引記録が「ブロック」と呼ばれる単位でつながり、改ざんが非常に難しい仕組みとなっています。
3種類のブロックチェーン
ブロックチェーンには大きく分けて3つの種類があります。
パブリックブロックチェーン
BitcoinやEthereumのように、誰でも自由に参加できるオープンなネットワーク。
コンソーシアムブロックチェーン
特定の企業や組織のみが参加を許可される、閉鎖的なネットワーク。
プライベートブロックチェーン
特定の企業や組織が独自に管理する、完全に閉じたネットワーク。
エンタープライズブロックチェーンとは?
エンタープライズブロックチェーンは、主にコンソーシアム型またはプライベート型のブロックチェーンを指し、企業のビジネスニーズに合わせてカスタマイズ・運用できる点が特徴です。 下の図ではHyperledger Fabricを指します。
エンタープライズブロックチェーンの背景・歴史
背景
- ブロックチェーンを企業間でのデータ共有基盤として活用したいが、トランザクションの内容が競合他社や一般人にまで公開されるのは避けたい。
- 各国の法律・規制に準拠したうえで運用したい。
- BitcoinやEthereumなど既存のブロックチェーンでは実現が難しいため、企業利用を想定した独自のブロックチェーンを開発
歴史
- 2015年頃から複数の企業で独自のブロックチェーン開発がスタート
(Ethereumは2014年にホワイトペーパー発表、2015年にメインネット稼働であり、ほぼ同時期から開発がスタート) - 2016年にLinux Foundation傘下のプロジェクトとしてHyperledgerが設立。オープンソースのエンタープライズブロックチェーンに注目が集まる。
- 2017年以降、多くの企業で実証実験が行われ、主に金融・貿易・製造業などで活用が進んでいる。
エンタープライズブロックチェーンの設計思想
エンタープライズブロックチェーンは、パブリックブロックチェーンとは異なる設計思想に基づいています。以下にその主な特徴を紹介します。
集中管理とセキュリティの向上
企業内での利用を前提としているため、管理者がネットワークへの参加やデータ共有範囲を制御します。これによりセキュリティが向上し、規制への対応も容易になります。ただし、分散化のメリットは一部犠牲になります。
高速な処理と確定性
企業は迅速な取引処理を求めるため、コンセンサスアルゴリズムやブロック生成の仕組みがパブリックブロックチェーンよりも高速に設計されています。トランザクションがブロックに含まれた時点で確定し、二重支出などのリスクを低減する「ファイナリティ」が保証されます。
トークンやウォレットの不要
エンタープライズブロックチェーンでは、ネットワーク維持のためのインセンティブとしてトークンは一般的に使用されません。また、ウォレットも必須ではありません。
柔軟なデータ共有範囲
企業は取引内容やパートナーとの関係に応じて、データの共有範囲を柔軟に設定できます。これにより、機密情報の保護や競合他社との情報共有制限が可能になります。
ガバナンス機能の充実
企業はネットワーク参加者の管理、ノードの監視、データのバックアップなど、独自のガバナンス機能を実装できます。
代表的なエンタープライズブロックチェーンプラットフォーム
エンタープライズブロックチェーンの導入を支援するプラットフォームは多数存在します。ここでは、その中でも特に注目されている3つのプラットフォームをご紹介します。
Hyperledger Foundation
Hyperledger Foundationは、Linux Foundationが設立したオープンソースのブロックチェーン技術開発を推進する組織です。以下のようなプラットフォームを提供しています。
Hyperledger Fabric
柔軟なデータ共有設定や高度なガバナンス機能、セキュリティ機能が特徴。スマートコントラクトは「チェーンコード」と呼ばれ、Java、Go、Node.jsなどで記述可能です。
Hyperledger Besu
Ethereumをベースにしたプラットフォームで、Ethereumエコシステムとの高い互換性を持ち、プライベートトランザクション機能も備えています。
R3 Corda
R3は、金融機関向けにブロックチェーン技術を研究・開発する企業です。Cordaは金融取引に特化したプラットフォームで、高いセキュリティとプライバシー機能を提供します。
CordaはDAG(Directed Acyclic Graph)というデータ構造を採用し、トランザクションは参加者間でのみ共有されます。また、「状態」と呼ばれるデータ格納ボックスを使って過去の取引履歴を保持します。
Corda Open Source
無料で利用できるオープンソース版。
Corda Enterprise
商用版で、さらに高度な機能が利用可能です。
Enterprise Ethereum Alliance (EEA)
Enterprise Ethereum Alliance (EEA)は、Ethereumの企業向け利用を促進する組織です。標準化やセキュリティ向上、プライバシー保護に取り組んでおり、Hyperledger Besuなど他のプラットフォームにも採用されています。
エンタープライズブロックチェーンの活用事例
エンタープライズブロックチェーンは、さまざまなビジネス課題の解決に役立ちます。具体的な活用事例をいくつかご紹介します。
サプライチェーンマネジメント
サプライチェーンは、原材料の調達から製造、物流、販売までのプロセス全体を指します。エンタープライズブロックチェーンは、サプライチェーンの透明性向上やトレーサビリティの強化、効率化に貢献します。
TradeLens (IBM & Maersk)
IBMと海運会社Maerskが共同開発したサプライチェーンの可視化プラットフォーム。
TradeWalt (NTTデータ)
日本企業によるサプライチェーン管理プラットフォームで、貿易関連企業の効率化を支援。
Food Trust (IBM)
食品のトレーサビリティを向上させるプラットフォームで、Wal-MartやCarrefourなどの主要小売企業に採用されています。
貿易金融
貿易金融は、国際貿易における資金調達や決済、信用状発行などを扱う分野です。エンタープライズブロックチェーンは、貿易金融の効率化やセキュリティ向上、透明性向上に寄与します。
Marco Polo (R3)
貿易金融のプラットフォームで、ブロックチェーンを活用することで資金調達の効率化や取引の透明性を実現
まとめ
エンタープライズブロックチェーンの今後の展望
エンタープライズブロックチェーンは、企業が抱えるさまざまな課題を解決する強力なツールです。今後も技術の進化とともに、その活用範囲は広がり続けることでしょう。
パブリックブロックチェーンとは異なる特徴を持つエンタープライズブロックチェーンは、企業のニーズに合わせて柔軟にカスタマイズできるため、業務効率化やセキュリティ強化、新たなビジネスモデルの構築など、さまざまな可能性を秘めています。これからのビジネス環境において、エンタープライズブロックチェーンの導入はますます重要性を増していくことでしょう。
ブロックチェーン技術はまだ発展途上にありますが、その潜在力は計り知れません。エンタープライズブロックチェーンを活用することで、企業は競争力を高め、持続可能な成長を実現するための新たな道を切り拓くことができるでしょう。ぜひ、この機会にエンタープライズブロックチェーンの可能性を探求してみてください。
◾️参考資料
Hyperledger Fabric Docs
• Hyperledger Fabric(再)入門
• Besu documentation
• R3 Technical Documentation
• Corda Portal
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