【Web3時代の法規制】トークンとDAOの規制動向を理解する

Web3

概要と目的

Web3の進展は、デジタルエコノミーの新しい形を創り出しており、イノベーションの可能性を大いに秘めています。しかし、新たな技術とビジネスモデルの登場に伴い、既存の法制度はこれに追いつくための整備を進めています。

特にトークンDAO(分散型自律組織)に関連する法規制は、Web3プロジェクトに携わる企業や個人にとって無視できない重要な関心事となっています。本記事では、これらのトピックについて最新の規制動向を解説し、法的リスクを回避するための具体的なポイントを探ります。

トークンの種類と適用法

Web3の世界では、多種多様なトークンが存在し、それぞれ異なる機能と法的地位を持ちます。

トークンの種類と適用法について理解することは、法規制に準拠したプロジェクト運営に不可欠です。ここでは、主要なトークンの種類とそれに関連する法規制を見ていきましょう。

暗号資産

ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産は、主に取引の手段として使用されます。これらは資金決済法金融商品取引法の対象であり、日本においては暗号資産交換業者として登録が必要です。

例えば、2019年に起きた仮想通貨取引所Zaifのハッキング事件は、法規制の厳格化を促すきっかけとなりました。

ステーブルコイン

テザー(USDT)USDコイン(USDC)などのステーブルコインは、法定通貨や他の資産に価値を連動させることで、価格の安定性を提供します。

日本では、資金決済法に基づく規制対象であり、適切な裏付け資産の保有が求められます。2021年のテザーに対する規制強化の動きは、ステーブルコインの信頼性向上につながりました。

ユーティリティトークン

プラットフォーム内でのサービスや商品にアクセスするためのトークンです。規制の対象外であることが多いですが、投資的な性質を帯びると金融商品取引法に抵触する可能性があります。

具体例1:『FiNANCiEのクラブトークン

FiNANCiE | あなたの夢が、みんなの財産になる
FiNANCiE(フィナンシェ)は、夢がみんなの共有財産になる、ドリーム・シェアリング・サービスです。

具体例2:『SOCIOS.COMのファントークン

Socios.com | Be more than a fan
The creators of Fan Tokens, Socios.com is partnered with the biggest sports teams in the world. Compete, earn, redeem.

例えば、2017年のICOバブル時には多くのユーティリティトークンが発行されましたが、その中には詐欺的なプロジェクトも含まれており、規制当局による厳しい監視が行われました。

ガバナンストークン

プロジェクトやプラットフォームの意思決定の参加権・投票権に関与するためのトークンで、分散型金融(DeFi)プロジェクトで広く使用されています。

2020年のCompoundプロトコルが発行したガバナンストークン「COMP」は、トークンホルダーがプロトコルの重要な決定を行うことを可能にしました。このようなトークンは、証券性を持つと判断されれば、金融商品取引法の対象となる可能性があります。

具体例:『UniswapのUNIトークン

Home | Uniswap Protocol
Swap, earn, and build on the leading decentralized crypto trading protocol.

具体例2:MakerDAOのMKRトークン

セキュリティトークン

株式債券など、伝統的な金融資産と類似した性質を持つトークンで、特定の資産の権利を表します。これは金融商品取引法に基づく厳しい規制を受けます。

例えば、2020年に日本で初めて行われたセキュリティトークンオファリング(STO)では、発行体である企業が金融庁の許可を取得し、投資家保護のための適切な措置を講じる必要がありました。

具体例:Progmat、LIFULLらの不動産STOプロジェクト

例1:『Progmat

【Progmat】デジタルアセットプラットフォーム
これまで誰も体験したことのない、まったく新しい金融取引の世界。ブロックチェーンをはじめとした先端技術と、金融ノウハウを掛け合わせることで、セキュアで安定したプラットフォームを社会実装する。それが、Progmat(プログマ)。

例2:『LIFULL

国内初の一般個人投資家向け不動産STOを実現、不動産特定共同事業法に準拠したセキュリティトークン発行・譲渡システムを提供 - 株式会社LIFULL
株式会社LIFULLは、デジタル証券プラットフォームを提供するSecuritize Japan株式会社(以下Securitize)との協業で提供する不動産特定共同事業者(不特法事業者)向けSTO(Security Tok

NFT/SBT/SFT

NFT(非代替性トークン)やSBT(ソウルバウンドトークン)、SFT(セキュリティファンドトークン)は、独自の法的課題を持ちます。

特にNFTは、アートやデジタルコレクティブルの分野で急成長しており、著作権や資金決済に関する新たな法的問題が浮上しています。

2021年の「Bored Ape Yacht Club」や「CryptoPunks」のようなNFTプロジェクトは、法的および規制上の問題を回避するための適切な知識が必要です。

具体例1:『CryptPunks

CryptoPunks
10,000 unique collectible characters with proof of ownership stored on the Ethereum blockchain.

具体例2:『Bored Ape Yachet Club

Bored Ape Yacht Club - Welcome to the BAYC Clubhouse
Welcome to the official home of BAYC and MAYC. Log in if you’re a member or learn more about the collections, perks, uni...

RWA(Real World Asset)トークン

RWA(Real World Asset)トークンは、伝統的な資産である株式や不動産だけでなく、物に対する付加価値をデジタル化し、新たな投資機会を創出するために活用されるトークンです。

例えば、希少なヴィンテージワイン、アート作品、宝石、さらには農産物など、通常は流動性が低いとされる物品をトークン化することで、これらに対する所有権を分割し、多くの投資家に提供することが可能となります。

このアプローチにより、従来の投資対象ではなかった物に対する付加価値が最大限に活かされ、新たな市場や収益の機会が生まれています。

具体例1:UniCask

UniCask
We provide new distilleries with solutions to shorten setup and maturation times, enabling direct cask sales to vendors ...

国際的な規制動向

Web3や暗号資産の分野では、活動が国境を越えて広がるため、国際的な規制動向を把握することが不可欠です。

各国の規制は異なり、これがプロジェクトの成功やリスクに直接影響を及ぼすことがあります。以下では、アメリカ、EU、アジア諸国の主な規制動向について詳しく見ていきます。

米国証券取引委員会(SEC)と暗号資産

米国において、暗号資産は長らく規制の枠外にありましたが、最近では米国証券取引委員会(SEC)による規制強化の動きが顕著になっています。SECは、暗号資産が証券に該当する場合、既存の証券法に従うべきと主張しており、これに関連する訴訟も増加しています。

リップル社に対する訴訟

SECは、リップル社の発行する暗号資産XRPが未登録の証券であると主張し、2020年に訴訟を提起しました。この訴訟は、暗号資産業界全体に衝撃を与え、多くの企業が自らのトークンが証券として扱われるリスクについて再評価を迫られる結果となりました。

SECの厳格な姿勢は、米国における暗号資産プロジェクトの進行に多大な影響を及ぼしており、今後も同様のケースが発生する可能性が高いです。

EUにおけるMiCA(Markets in Crypto-Assets)規制

EUは、暗号資産市場における統一的な規制フレームワークを提供するために、MiCA(Markets in Crypto-Assets)規制を導入しています。この規制は、暗号資産の発行者やサービスプロバイダーに対する厳格なルールを定め、消費者保護と市場の安定性を確保することを目的としています。

MiCA規制の影響

MiCAは、暗号資産がEU域内で発行される場合、発行者に対して詳細なホワイトペーパーの提出や、リスク管理の義務付けを要求します。

また、暗号資産取引所やウォレットプロバイダーも、MiCAの規定に従う必要があり、規制を遵守しない場合には厳しい罰則が課されます。この統一規制により、EU全体での暗号資産市場の透明性と一貫性が向上すると期待されていますが、一方で規制遵守のコストが増大する可能性もあります。

アジア諸国での規制の進展

アジアでは、暗号資産に対する規制が国ごとに異なり、それぞれ独自のアプローチを取っています。特にシンガポール香港中国の動きが注目されています。

シンガポール

シンガポールは、暗号資産に対して比較的柔軟な規制を行っており、金融機関を通じた健全な取引を促進しています。シンガポール金融管理局(MAS)は、暗号資産に関する包括的なライセンス制度を導入し、透明性を高めると同時に、イノベーションの促進を目指しています。これにより、多くの暗号資産関連企業がシンガポールに拠点を置いています。

香港

香港は、暗号資産に対する規制を強化する方向に動いており、特に取引所やファンドマネージャーに対する監督が強まっています。香港証券先物委員会(SFC)は、暗号資産取引プラットフォームに対するライセンス制度を導入し、投資家保護を強化する措置を取っています。

中国

中国は暗号資産に対して非常に厳しい姿勢を取っています。中国人民銀行は、暗号資産の取引を全面的に禁止し、国内のマイニング活動も厳しく取り締まっています。この厳しい規制により、中国からの暗号資産関連事業は他国へと流出している状況です。

各種トークンに対する法規制のチェックポイント

トークン発行や取引を行う場合、以下のポイントに注意することが法的リスクを回避するために重要です。

法的性質の決定方法

トークンがどのカテゴリーに属するかを明確にし、適用される法規制を確認します。例えば、2021年のバイナンスのユーティリティトークン「BNB」は、規制当局によって証券と見なされるリスクが指摘されました。

法規制のセルフチェック方法

トークンが規制の対象となるかどうかを自己診断するためのチェックリストを活用します。金融商品取引法や資金決済法に抵触する場合、必要な登録や許可を事前に取得することが求められます。

トークン取り扱いに関する業規制の有無

トークンを取り扱う事業が業規制の対象となるかを確認します。特に暗号資産交換業者としての登録が必要な場合、金融庁への届出が必須です。例えば、2020年に日本で起きたコインチェックのハッキング事件以降、暗号資産交換業者に対する規制は厳格化されました。

「電子記録移転権利」規制

「電子記録移転権利」は、特にセキュリティトークンに関連するもので、ブロックチェーン技術を前提とした財産的価値を示す権利に関する規制です。これにより、トークン化された資産の発行者は、有価証券報告書の提出金融商品取引業の登録が必要となり、厳格な業規制の対象となります。

「暗号資産」規制

暗号資産は、資金決済法に基づく規制の対象であり、ビットコインイーサリアムなどが該当します。暗号資産交換業者として登録するための基準が厳格化されており、業界全体の信頼性向上を目指しています。

「前払式支払手段」規制

前払式支払手段は、電子マネープリペイドカードなどが該当し、未使用残高に応じた届出や登録が義務付けられています。また、第三者が利用可能な支払手段には発行保証金の供託が求められるなど、利用者保護の措置が施されています。

「電子決済手段」規制

電子決済手段は、法定通貨と連動する財産的価値を持つもので、送金行為とみなされるため、銀行業免許や資金移動業登録が必要となります。

その他の関連法

その他の関連法として、不動産特定共同事業法倉庫業法などが関係し、特にNFTRWAトークンに関する法的リスクが存在します。発行者や流通時に適切な対応が求められるため、法的リスクを事前に理解しておくことが重要です。

DAOの法規制

DAO(分散型自律組織)は、ブロックチェーン上でスマートコントラクトを用いて運営される新しい組織形態です。しかし、法的に認められた法人格を持たないため、従来の企業法とは異なる法的課題が存在します。

DAOの位置付け

日本法ではDAOに対する明確な規定がなく、現在進行中の法制化に向けた議論が注目されています。例えば、アメリカではワイオミング州がDAOを法人として認める法改正を行っており、日本でも同様の動きが予想されます。

DAOの法的課題

DAOに関連する主な法的課題としては、責任の所在やガバナンスの透明性、資金の管理方法が挙げられます。

2021年に起きた「The DAO」ハッキング事件は、DAOのセキュリティとガバナンスの重要性を浮き彫りにしました。これらの課題に対応するため、DAO運営者は適切なガバナンス構造を整備し、透明性の高い運営を行う必要があります。

セキュリティとサイバーセキュリティ規制

セキュリティとサイバーセキュリティ規制は、DAOやトークンにとって極めて重要な課題です。

セキュリティの脆弱性は、資金の不正流用やデータの流出など深刻なリスクを引き起こす可能性があります。

法的には、企業やプロジェクトは適切なサイバーセキュリティ対策を講じ、これらのリスクに備えることが求められています。規制強化に伴い、セキュリティ基準を遵守し、定期的な監査やリスク評価を実施することが、トークンやDAOの安全な運営に不可欠です。

プライバシーとデータ保護規制

Web3では、プライバシーとデータ保護がますます重要な課題となっています。ブロックチェーン技術の特性であるデータの不変性は、個人情報保護の権利と対立することがあり、特にEUのGDPRにおいて「忘れられる権利」との間にジレンマが生じます。

この問題を解決するため、ハッシュ化オンチェーンとオフチェーンのデータ管理を組み合わせる技術的手法が提案されていますが、法的な整備も必要です。

また、Web3の進展に伴い、分散型アイデンティティ(DID)が注目されています。DIDは、個人が自分のデータを管理し、必要最小限の情報のみを提供できるため、プライバシー保護に優れた技術ですが、その普及には新たな規制やガバナンスの課題が伴います。DIDの標準化と国際的な規制調和が求められており、実際の事例としてマイクロソフトの「ION」プロジェクトが進行中です。

最新の法令改正とその影響

2024年4月、日本におけるWeb3関連の法令が改正され、いくつかの重要なポイントが浮上しました。特にDAOの法制化やトークンに関する規制の緩和が注目されています。

DAO法制化に向けた動き

法令改正の中でも特に注目されるのは、DAOの法制化に向けた動きです。DAOが正式に法人格を持つことで、投資家保護や資金管理の透明性が向上する一方、新たな規制遵守が求められるようになります。これにより、日本でもDAOを活用したプロジェクトが増加する可能性があります。

金融商品取引法における規制緩和

トークン発行や取引に関する規制が一部緩和されることで、新たなビジネスチャンスが生まれる可能性があります。例えば、2024年の法改正では、特定の条件を満たすトークン発行がより容易になり、中小企業やスタートアップにとっても、資金調達手段としてのトークン発行が身近なものとなるでしょう。この動きは、Web3エコシステムのさらなる拡大を後押しし、イノベーションの促進に寄与することが期待されています。

デジタルアセットに関する課税ルールの変更

今回の改正で、特にステーブルコインやNFTに対する課税の明確化が進められました。これにより、納税義務がより明確となり、プロジェクト運営者や投資家が適切に対応することが求められます。税制の整備は、デジタル資産の信頼性向上にも繋がり、長期的な市場の安定化に寄与するでしょう。

税制と会計規制

Web3の進展に伴い、税制と会計規制も重要な課題となっています。特に、暗号資産やトークンの取引に関する税務処理は複雑で、適切な会計処理が求められます。

税制の課題

暗号資産やトークンの売買、保有による利益は課税対象となります。

特に、ステーブルコインやNFTに対する課税ルールが明確化され、プロジェクト運営者や投資家が正確に納税する必要があります。法改正により、新たな税務ルールが適用される場合があり、継続的な確認が重要です。

会計処理の課題

暗号資産やトークンの会計処理には、評価方法や収益認識に関する明確な基準が求められます。トークン発行時の収益の計上や、保有資産の価値変動をどのように会計処理するかが重要な論点となります。

最新の法改正が税制や会計処理にどのような影響を与えるかを把握し、適切な対応策を講じることがWeb3プロジェクトの成功には欠かせません。

実際のビジネスにおける対応戦略

最新の規制動向を受けて、Web3関連プロジェクトに携わる企業や個人がどのように対応すべきかを考えます。

法務チームとの連携強化

まず、プロジェクトを進める際には、法務チームとの密接な連携が不可欠です。特にトークン設計DAOの構築に際しては、事前に法的リスクを精査し、必要な対策を講じることが重要です。

透明性の確保

投資家やユーザーとの信頼関係を築くためには、プロジェクトの透明性を高めることが求められます。例えば、トークンの発行ルールやDAOの運営方針を明確にし、定期的な情報公開を行うことで、規制当局からの信頼も獲得しやすくなります。

規制対応の柔軟性

法規制は今後も変化する可能性が高いため、規制の変化に対応できる柔軟な運営体制を構築することが求められます。例えば、複数の法域におけるトークン発行や取引を検討する際には、それぞれの地域に応じたコンプライアンス戦略を策定する必要があります。

教育と意識向上

社内外のステークホルダーに対する教育と意識向上も重要です。Web3の法規制は複雑であり、関係者全員が正確な理解を持つことが、プロジェクトの成功と法的リスク回避に繋がります。定期的な研修やワークショップの実施が推奨されます。

倫理的および社会的影響

倫理的および社会的影響は、Web3技術の普及が引き起こす重要な課題です。これには、デジタルディバイドの拡大プライバシーの侵害労働市場への影響などが含まれます。また、DAOやトークン経済の透明性や公平性、意思決定過程の倫理性も問われます。これらの課題に対して企業は、倫理的なガイドラインの策定や社会的責任の遂行を通じて、持続可能で公正なビジネスモデルを構築することが求められます。

結論

Web3の発展は、これまでにない新たなビジネスチャンスを生み出す一方で、法規制への対応はますます重要になっています。トークンの種類やDAOに対する規制動向を把握し、適切な対応策を講じることで、プロジェクトの成功と長期的な持続可能性を確保することができます。法規制を正しく理解し、適切な対策を行うことが、Web3時代における成功の鍵となるでしょう。

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